私の上司はご近所さん

彼女は一ケ月前に同じ歳の彼氏と別れたばかり。以前、その彼を紹介してくれたことがあったけれど、ドラマに出ていた俳優さんに少しだけ似ていたことを思い出す。

「ってことで、百花。まずは歓送迎会で藤岡部長とお近づきになってください」

「へ?」

今週末の金曜日には前任の井上部長と、新任の藤岡部長の歓送迎会が行われる予定となっている。

「そして藤岡部長に私を紹介してくださいっ!」

「え~! そんなの無理だよ」

異動してきたばかりの部長と話しても、きっと会話は弾まない。だから挨拶して、当たり障りのない話を少しだけすればいいや、と密かに思っていたというのに……。

結衣のムチャブリに難色を示していると、彼女がニヤリとした不気味な笑みを浮かべた。

「藤岡部長に私を紹介してくれたら、百花が大好きなジュジュ苑の焼肉をご馳走するんだけどなぁ」

ジュジュ苑とは高級焼肉店の名前。備長炭で焼くカルビは口に入れると瞬時にトロけて、まさに美味。

「わかった。やる」

部長に結衣を紹介するなんて気が重い。数秒前にはたしかにそう思っていた。でも絶品カルビがタダで食べられるのなら話が別だ。

「交渉成立だね。百花、健闘を祈る」

「ラジャ」

こうして私は部長に結衣を紹介するというミッションに就いた。

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