私の上司はご近所さん

日々の業務が忙しく過ぎていく中、東京プレイスの取材日を迎えた。

午前中は普段通りに仕事をして、午後一番に部長とともに本社を後にする。向かう先は工場がある横浜市郊外の工業地帯。会社の最寄り駅である品川から下り電車に乗り込んだ。

「部長、横浜は初めてですか?」

ちらほらと空いている座席に部長と並んで腰を下ろす。

「ああ。だから今日は取材が終わったら、みなとみらいに寄ってみようと思っている」

取材時間は午後三時から。今日は社には戻らずに直帰していいことになっている。

「みなとみらいですか。いいなぁ」

みなとみらいを最後に訪れたのは大学生の頃。仲がよかった女子五人とオシャレなカフェでランチをして観覧車に乗ってはしゃいだ日が懐かしい。

「一緒に行くか?」

「えっ?」

まさかの誘いが信じられずに思わず聞き返す。

「私も行きたいって顔に書いてあるぞ」

「えっ、嘘っ!」

急いで両頬を手で覆い隠すと、部長がクスッと笑った。

「冗談だ」

わかりやすい冗談だったにもかかわらず、部長の言うことを真に受けてしまった自分が恥ずかしい。照れ隠しのために「もう」と唇を尖らせる。

「顔に書いてあるというのは冗談だが、一緒に行くか?と聞いたのは冗談じゃない。案内人がいると心強いからな」

部長の言う通り、みなとみらいに関しては私の方が詳しいはずだ。それに仕事終わりの予定は特になにもない。久しぶりにみなとみらいに行って、羽を伸ばすもの悪くないと思った。

「はい。私が責任を持って部長を案内します。お任せください」

自信満々で返事をすると、部長が白い歯を見せて微笑んだ。

「ありがとう。楽しみだ」

穏やかな日差しが差し込む電車内での部長とのやり取りは、まるでデートの約束を交わしたみたいで気恥ずかしかった。

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