私の上司はご近所さん
電車を乗り継いで工場に到着すると受付を済ませる。そしてチョコレートの製造過程が見学できる工場を横目にして、まずは工場長室がある事務棟に向かった。
築三十年だと聞いた古びた事務棟は、夏は冷房が利かずに暑く、冬は隙間風が吹いて寒い。
今日の取材日が気候のいい時期でよかったと思いつつ、ギシギシと音を立てる階段を上がる。そして二階の一番奥まで進むと工場長室のドアをノックした。
「はい、どうぞ」
返事を確認するとドアを開けて工場長室に入る。
「失礼します。本社広報部の園田です。今回もお世話になります」
「いらっしゃい。いつもご苦労さま」
工場長はイスから立ち上がると、挨拶をする私に労いの言葉をかけてくれた。
少し張り出たお腹に丸い顔が特徴的な工場長は癒し系。ホッと和みながら頭を下げる。
「初めまして。札幌支社から異動になりました藤岡です。今日はよろしくお願いします」
「工場長の吉田です。わざわざお越しいただきありがとうございます」
部長と工場長は握手しながら挨拶を交した。
「取材の前に工場を見学させていただきたいのですが、よろしいでしょうか」
「もちろんです。では早速参りましょうか」
「はい。よろしくお願いします」」
部長の申し出を快く引き受けてくれた工場長ともに部屋を出ると、工場に向かった。