私の上司はご近所さん
「部長はいつもこんな高級レストランで食事をしているんですか?」
「いつもだったら破産するな。女の子はこういうオシャレなレストランで食事するのが好きだと思ったが……園田さんは中華街の肉まんの方がよかったみたいだな」
蒸し立て熱々な肉まんを食べながら、異国情緒あふれる横浜の中華街を散策するのはとても楽しい。でもディナーなら、やはり……。
「……フランス料理の方がいいです」
「それなら遠慮せずに食べてくれ。これはサバの味噌煮定食のお礼だ」
部長はクスッと小さく笑うと、ワイングラスを手にした。
ウチの食堂の定食とホテルのコース料理とでは、天と地ほどの差がある。それなのに『お礼だ』と言うのは、私が遠慮しないように、という部長の配慮に違いない。
これ以上、部長に気を使わせるのは心苦しい。
「はい。いただきます」
「どうぞ」
前菜である鴨肉の燻製を口に運ぶ。
「んっ! おいしいです」
「だな」
口もとに笑みをたたえ、赤ワインを優雅に味わう部長からは大人の余裕が感じ取れた。
横浜は初めてだという部長を私が案内するつもりだったのに……。
優雅なディナーを前に、これじゃあ立場があべこべだ、と小さく肩を落とした。