私の上司はご近所さん
みなとみらいの夜景を眺めながら豪華な料理に舌鼓を打つ。そんな贅沢なひとときはあっという間に終わり、レストランを後にする。
「部長、ごちそうさまでした」
「どういたしまして」
一階に向かうエレベーターの中で、フランス料理をご馳走してくれた部長にお礼を告げる。
「お料理、とてもおいしかったです」
「そうか、それはよかった。ん? 少し顔が赤いな。飲みすぎたか?」
「えっ? あっ……」
言葉に詰まってしまったのは、部長に顔を覗き込まれたから。整った彼の顔が間近に迫ったら焦らずにはいられない。
「少し夜風にあたってから帰ろうか」
「……はい」
部長は私の顔を覗き込むために屈めていた上半身をゆっくりと起こすと、エレベーターの階数表示を見つめた。
私たちのほかには誰も乗っていないエレベーターという狭い空間で、ふたりの距離が縮まっても部長はまったく動揺していないようだ。
少しは私を女性として意識してくれてもいいのに……。
なんとなく納得がいかずに頬を膨らませていると、エレベーターがポンと音を立てて一階に到着した。
「ほら」
「……?」
エレベーターから降りた私の目の前に、部長の手が差し出される。
「また尻もちをつきたくないだろ?」