私の上司はご近所さん
オフィスで尻もちをついてしまい、その後の歓送迎会ではフラついてしまったところを部長に助けてもらった。忘れかけていた過去の失態が、頭の中でフラッシュバックした。
「もう尻もちはつきません」
「へえ、すごい自信だな」
「当然です」
今日は横浜の工場に行くからと、五センチヒールのパンプスを履いてきた。このパンプスは履き慣れているから、絶対に尻もちをつかないと断言できる。
強気な発言を繰り返すと、部長がプッと小さく吹き出した。私には部長がどうして笑うのかがわからない。目をパチクリさせて、まだクスクスと笑う部長を見つめた。
口もとを手で覆い隠し、肩を揺らして笑っている部長の姿はオフォスとは違って隙だらけ。
なんだか、かわいらしいかも……。
部長の笑顔につられるように、口もとが緩んでいくのを実感した。しばらくすると私の視線に気づいた部長が、わざとらしくコホンと咳払いする。
「行こうか」
「えっ? あっ!」
部長はまるで何事もなかったように、私の手を握った。
もう、尻もちはつかないって言ったのに……。
私の言うことをまったく気に留めない部長にあきれたのは、ほんの一瞬。
飾り気のない部長の姿が見られたことがうれしくて、握られた手を振り払うことなく彼の後をついて行った。