私の上司はご近所さん

イルミネーションがキラキラと輝くみなとみらい地区を、部長と手を繋いで歩く。まるでデートみたいな状況に、あろうことか鼓動が早鐘を打ち始めた。

もしかしたら、部長もドキドキしている?

部長の反応を知りたくて、隣にいる彼のことをチラリと見上げてみる。でも部長は私のことなど気にもせずに、辺りの風景を見つめていた。

部長は酔った私が転ばないように手を繋いでくれただけ。ひとりで盛り上がって損した気分……。

ガックリと肩を落とすと、部長の足が止まった。

「こっちは温かいな」

「えっ? そうですか?」

生まれも育ちも東京の私にとって、雪が積もるのがあたり前の北海道の寒さは想像がつかない。

「札幌はまだ桜も咲いていないからな」

「へえ、そうなんですか」

「ああ」

部長は口もとに薄っすらと笑みを浮かべながら、目の前にそびえ立つ大観覧車を見上げる。そして「ちょっと失礼」と言うと、繋いでいた手をスッと離した。

行き場を失った私の右手が夜風にあたり、ひんやりとする。

部長の手は大きくて温かかったな。なんだか寂しいかも……。

ふと芽生えた感情を誤魔化すために、バッグの取手を両手で強く握りしめた。そこでハッと気づく。

どうして寂しいと思ったのだろう。だって部長は職場の上司。ただそれだけの関係なのに、と……。

< 51 / 200 >

この作品をシェア

pagetop