私の上司はご近所さん
ホッとしながら今までの経緯を説明するために、急いで部長のもとに駆け寄る。けれど眉間にシワを寄せている部長は、見るからに不機嫌そう。
「部長、あの……」
恐る恐る部長に声をかけてみると、なんの前触れもなく手首をガシリと掴まれる。そして抵抗する間もなく手を引っ張られた。部長の胸板に体がドンとぶつかる。
「She is my girlfriend.」
部長のくぐもる声と背中に回った彼の腕……。部長に抱きしめられていることにようやく気づく。
でも、どうして?
次々に起こる出来事に頭が混乱するばかり。
部長の腕の中にすっぽりと収まりながら外国人の彼に視線を向ければ、肩をすくめて立ち去って行く後ろ姿が見えた。
「ひとりにしてすまなかった。怖かっただろ?」
外国人の彼に話しかけられて恐怖は感じなかったけれど、心は不安で埋め尽くされていた。でも部長の優しい声を聞き、穏やかなまなざしを見たら、張りつめていた糸が切れるように、気が緩んでいくのを実感した。
でも何故、部長が謝るのか、そして何故、怖かっただろ?と聞くのかわからない。
「あの、私……英語がわからなくて……」
しどろもどろになりつつ、自分の身になにが起きたのか理解できていないことを告げると、部長の目が大きく見開かれた。