私の上司はご近所さん
「ナンパされていたことに気づいてなかったのか?」
「えっ? ナンパ!?」
過去にナンパされた経験はある。でもそれは日本語でわかりやすく声をかけられたから、ナンパだってすぐにわかった。
でも今回はちっとも気づかなかった。部長が助けてくれなかったら、私、どうなっていたんだろう……。
外国人の彼に肩を抱かれたまま、この場から強引に連れ去られる自分の姿が頭に浮かび、今になって体が小さく震え出す。
「大丈夫か?」
思わず部長のジャケットをキュッと握りしめてしまった私の耳に、彼の心配げな声が聞こえてきた。その近さに驚き、ハッと視線を上げると、部長の整った顔が目と鼻の先に見えた。
「す、すみません!」
部長に抱きしめられていたこと思い出した私は、足を後退させると彼から距離を取った。
「いや、俺の方こそすまなかった。でもナンパ野郎を撃退するには、恋人のフリをするのが手っ取り早いと思ったんだ」
「そ、そうだったんですね」
私を抱きしめた理由に納得したものの、恥ずかしさは増すばかり。この気まずい空気を打破するために、必死で違う話題を探した。
「あ、部長。いい写真撮れましたか?」
外国人に声をかけられる前、部長が夜景を撮影していたことを思い出す。
「ああ」