私の上司はご近所さん
部長はジャケットの内ポケットからスマホを取り出すと、画面を私に向けた。そこには宝石を散りばめたような、みなとみらいの綺麗な夜景が写っている。
「すごく綺麗ですね。その画像、彼女さんに見せるんですか?」
突然、彼女の話題を持ち出したのは、話を盛り上げようと思ったから。
「ん? まあ、そんなところだ。それより観覧車に乗るか?」
でも部長は彼女の話をはぐらかす。
理由はわからないけれど、部長は彼女のことをあまり聞かれたくないのかもしれない。
そう思った私は彼女について、これ以上尋ねないことにした。
「観覧車はいいです」
観覧車に乗ることを断ったのは、ふたりきりになるのを避けるため。あの狭い空間で部長と向き合ったら抱きしめられたことを思い出して、また顔が赤くなってしまうに決まっている。
「そうだな。俺と乗るよりパン屋の彼氏と一緒に乗った方が楽しいよな」
「パン屋の彼氏?」
部長の口から唐突に飛び出した言葉の意味がわからずに、首を傾げる。すると、部長が近くのベンチに腰を下ろした。
「ほら、翔ちゃん。だっけ?」
私と翔ちゃんは幼なじみ。それ以上でもないし、それ以下でもない。
「翔ちゃんは彼氏じゃありません。私、高校生のとき、翔ちゃんにフラれているです」
「そうだったのか。変なことを言ってすまなかった」
「いいえ」