私の上司はご近所さん

部長のフォロー


横浜の工場に行った翌日。取材の報告書を作成しているとデスクの上の電話が鳴った。緑のランプが点滅するのは外部からの電話。入力作業の手を止めると受話器を取る。

「お電話ありがとうございます。クイーンズショコラ広報部、園田でございます」

外線応対をしつつ報告書の上書き保存をすると、ペンを握りメモを用意した。

「もしもし、お宅のチョコを買ったんですけどね。孫と一緒に食べようと思って箱を開けたら、チョコレートの表面が白くなっていたの」

ゆったりとした口調と『孫』というワードから、電話の相手は高齢の女性だと判断した。

広報部直通の外線電話にかかってくるのは、企業からの問い合わせが大半を占める。個人客から、しかも購入した商品に関する問い合わせ電話が広報部にかかってくることは珍しいと思いつつ、慎重に対応した。

「それはブルーム現象といって、カカオバターが表面に溶け出して白い結晶となったものだと思います。風味は落ちますが、体に害があるものではないのでご安心ください」

チョコレートの知識は新人研修のときに叩き込まれた。お客様を不安にさせないように言葉を選ぶ。

「あら、そうなの。あのね、うちの孫は小学三年生の女の子なんだけど、お宅のチョコレートが大好きなの。でもこんな風に白くなったのは初めてだから、ビックリしちゃって」

「そうですか」

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