私の上司はご近所さん

藤岡部長が異動してから初めて迎えた金曜日の午前九時。始業とともに広報部のオフィスは電話が鳴る音や、パソコンのキーボードを叩く音などで活気に満ちあふれる。

「園田さん。星出版の山崎さんから三番にお電話です」

「はい。ありがとうございます」

取次ぎをしてくれた後輩の佐藤さんにお礼を言うと受話器を取った。

「お待たせいたしました。園田でございます」

『星出版の山崎です。お世話になります』

「こちらこそお世話になります」

電話相手である山崎さんは、首都圏のイベント情報雑誌『東京プレイス』を発刊している星出版の男性編集長。今年の二月号のバレンタイン特集で取材を受けたことがあり、彼とは面識がある。

『園田さんに折り入ってお願いしたいことがあるのですが、今お時間大丈夫ですか?』

「はい、大丈夫です」

お願いって、いったいなんだろう。

そう思いながら受話器越しの山崎さんの話に耳を傾けた。

『実は再来月に載せるはずだった他社さんの特集がボツになってしまったんですよ』

「そうですか」

一冊の雑誌が出来上がる工程を私は知らない。けれど切羽詰まった山崎さんの声を聞いただけで、彼がとても困っているということだけはすぐに理解できた。

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