私の上司はご近所さん
札幌支社では営業課長だった部長は広報部勤務の私たちより、お客様と接する機会がはるかに多かったはずだ。そんな部長がお客様の情報を瞬時に把握して判断を下した言葉には、説得力があった。
部長がさらに話を続ける。
「白石さんはウチの商品のリピーターらしいし、お孫さんの家族や知り合いにうちの対応がよかったという話を広げてくれれば、いい宣伝になる」
「そうなるといいですね」
商品をPRすることが広報部の仕事。部長のおもわく通りに進めば、社外広報業務に従事したということになる。
私と電話を代わる前から、そこまで考えていたとか? いや、いくら仕事ができるからといって、まさかね……。
主任と会話をしている部長を半信半疑で見つめた。
「少しの間不在にするが、後を頼む」
「はい。わかりました」
主任に引継ぎをした部長が席から立ち上がる。そして顎を軽く上に向けると、ネクタイの結び目に手を添えた。チラリと見えた突き出た喉仏と、手の甲に浮き出た血管が妙に色っぽい。ここはオフィスだというのに、ネクタイの向きを軽く正して身なりを整えた部長の仕草に釘づけになってしまった。
「ん? どうした?」
放心している私に気づいた部長に声をかけられる。でも部長に見惚れていましたとは、恥ずかしくて言えない。