私の上司はご近所さん
Story・6
ゴールデンウイーク
慌ただしく四月が過ぎて、迎えた五月のゴールデンウイーク初日。特に出かける用事がない私がエプロンを身に着けて実家の食堂の手伝いに励んでいると、ガラガラっと引き戸が開いた。
「いらっしゃいませ」
「百花、いつもの頼む」
来店したのは翔ちゃん。彼が言う『いつもの』とは好物のカツカレーのことだ。
「了解」
席に着いた翔ちゃんにお水を出すと、厨房にオーダーを伝えた。
「百花。ゴールデンウイークの予定は?」
両親が食堂を営んでいるため、ゴールデンウイークに家族と出かけたことは今まで一度もない。それは翔ちゃんも同じ。幼い頃の私たちは、どこにも連れて行ってもらえない寂しさを紛らわすため、ゴールデンウイーク中は毎日ずっと一緒に過ごした。
けれど、もう私たちは子供じゃない。自由に誰とどこへでも行ける。
「明日、結衣と一緒に映画を観に行くんだ」
「ふーん、ほかには?」
「……特にない」
結衣と出かけることを翔ちゃんに自慢げに話したのはいいけれど、それしか予定がないことが少し恥ずかしい。