私の上司はご近所さん

居酒屋のカウンター席で結衣とグラスをカチンと合わせる。

「映画おもしろかったね」

日本酒に口をつけると、映画の感想を結衣に語った。

ゴールデンウイーク二日目の今日、結衣と観たのはおとぎ話を実写化した映画。青いドレス姿のヒロインはとても綺麗だったし、笑顔が素敵な王子様もかっこよかった。

「私のところにも、白馬に乗った王子様が迎えにきてくれないかなぁ」

結衣は日本酒をチビチビと飲みながら、ため息交じりにつぶやく。

つらい日々を過ごしていたヒロインの前に現れた王子様と結ばれるという、王道のシンデレラストーリーは全女子の憧れ。ざわついている居酒屋にいても、ロマンティックな映画を観た余韻は簡単にはさめない。

「王子様、いいよねぇ」

結衣に同調するように夢心地でつぶやくと、思ってもみない言葉が耳に届いた。

「百花には彼氏候補がいるじゃない」

自慢じゃないけれど、私は彼氏いない歴イコール実年齢が同じ。結衣がなにを言っているのかがわからない。

「彼氏候補って誰のこと?」

「翔ちゃんに決まっているでしょっ!」

映画に関係のない翔ちゃんの名前が結衣の口から飛び出したことに驚き、飲んでいた日本酒を吹き出しそうになってしまった。

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