私の上司はご近所さん
即答したのは、私に対する翔ちゃんの態度が以前となにも変わらないから。もしも翔ちゃんの心境に変化があったのなら、私に優しくしてくれるでしょ?
私と彼は幼なじみ。今までも、そしてこれからも……。
「ねえ、百花。この際だからハッキリ聞くけど、翔ちゃんのことまだ好きなの?」
日本酒を一気に飲み干した結衣に返す答えは、もちろん決まっている。
「翔ちゃんのことは好きだよ。でも……」
「でも?」
「翔ちゃんへの気持ちが恋心なのかどうか、自分でもよくわからない」
矢野ベーカリーを継いで仕事をがんばっている翔ちゃんのことは尊敬しているし、話をすれば楽しい。しかし高校生のときのように、翔ちゃんのことばかり考えて夜も眠れなくなるという日はない.
「そっか。幼なじみってむずかしいね」
「……うん」
なんとなくしんみりしまった雰囲気を振り払うように、結衣は大きな声をあげると日本酒を追加オーダーする。
「百花、この焼き鳥おいしいよ」
「あ、うん」
結衣に勧められた焼き鳥を口に運ぶと、その柔らかくてジューシーな味わいを楽しんだ。