私の上司はご近所さん

『そこでそのスペースにクイーンズショコラさんの工場取材の特集を載せることはできないかと思いまして』

テレビCMや新聞や雑誌の広告ページなど、広告宣伝費をかければ新商品の宣伝はいくらでもできる。しかし残念ながら予算には限りがある。そんな中、自社の特集を掲載してくれるというこの申し出はとてもありがたい。

「至急、上司に相談して折り返しいたします」

『よろしくお願いします』

「はい、失礼します」

山崎さんとの会話を終わらせると受話器を置いた。

すごくいい話が舞い込んできた! 早く報告しなくちゃ!

ひとりで焦りながら、オフィス前方を見回す。しかし部長は不在だ。それならば主任に報告だ、と勢いよくイスから立ち上がった。そのときパンプスのヒールが斜めになり、体のバランスが崩れてしまった。

今履いているパンプスは先週の日曜日に買ったばかり。八センチヒールは少し高いかな?と一瞬気後れしたけれど、春らしいピンクベージュ色とシンプルなデザインが気に入り、即買いしたものだ。

予期せぬ取材申し込みに興奮してしまい、早く報告しようと慌てたのがいけなかった。結局、バランスを立て直すことができずに、ドシンと大きな音を立てて尻もちをついてしまった。

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