私の上司はご近所さん
運転している翔ちゃんの方が大変なのに、気を使わせちゃったな……。
不満を口にしてしまったことを反省すると、翔ちゃんが退屈しないような話題を必死に探した。
「ねえ、翔ちゃん。北海道ってゴールデンウイークに桜が咲くって知っていた?」
「知らねえけど、なんで急に北海道?」
「部長がゴールデンウイークは札幌に帰るって言うから」
私が思いついたのは、この前ネットで検索した北海道の情報。部長がゴールデンウイークに札幌に帰ること知り、まだ一度も行ったことのない北海道について調べてみたのだ。
「ふーん、藤岡さんって札幌の人なのか」
「うん、そう。翔ちゃん、ジンギスカンって食べたことある?」
東京ではあまり馴染みのない料理について翔ちゃんに尋ねると、彼の口から思いがけない言葉が飛び出した。
「百花は……藤岡さんのことが気になるんだな」
部長は私の上司。翔ちゃんが言う『気になる』という意味がわからない。
「えっ? どういうこと?」
私が聞き返すと、翔ちゃんの眉間にシワが寄った。
「別にわからないならそれでいい」
ハンドルを握って前方を見つめる翔ちゃんの横顔は、怒っているように見えて少し怖い。
「……うん」
運転している翔ちゃんが退屈しないように気を配ったつもりだったのに、逆効果だったみたい。
助手席のシートに深くもたれかかると、一向に進む気配がない車の列を黙って見つめた。