私の上司はご近所さん
翔ちゃんに急かされ、手にしていた明太子のおにぎりをパクっと頬張る。太陽の光を反射してキラキラと輝く綺麗な海を眺めながら食べるおにぎりは、普段よりもおいしく感じるから不思議だ。
「そう言えばサッカーの試合のとき、百花がおにぎり作ってきてくれたことがあったな」
「そんなこともあったね」
あれは私が中学一年生、翔ちゃんが中学三年生のとき……。
いつもならまだ布団の中で寝息を立てている午前五時。目覚ましの音が鳴ると同時にベッドから飛び起きる。早起きをしたのはお弁当を作って、サッカーの試合に出場する翔ちゃんを応援しに行くため。すでに翔ちゃんを好きだと自覚していた私は、ドキドキしながら手作りのお弁当を渡した。
『うまい!』と言いながら、おにぎりを食べてくれた翔ちゃんの笑顔は今もハッキリと覚えている。
「あのときのおにぎり、うまかったな」
昔のことなのに、私が作ったおにぎりをおいしいと言ってくれることがうれしい。
「じゃあ、また作ろうか?」
「マジで?」
「うん」
「メッチャ楽しみ」
おにぎりのことで素直に喜ぶ翔ちゃんは子供みたいでかわいらしい。クスクスと笑っていると翔ちゃんの表情が急に真面目なものになった。