私の上司はご近所さん
「百花。オマエ、どうして彼氏作らねえの?」
「えっ?」
いきなり恋愛の話を持ち出されて驚いた私は、食べていたおにぎりが喉につまりそうになってしまう。ゴホンとむせ返る私に、翔ちゃんが心配そうに声をかけてきた。
「おい、大丈夫か?」
「う、うん」
お茶を喉に流し込むとフウとひと息つく。
「百花って子供っぽいけど、まあ、それなりにかわいいだろ。それなのに今まで一度も彼氏ができたことがないからさ……」
翔ちゃんは私から視線を逸らすと、うつむきながら小さな声でポツリとつぶやいた。
彼とは長いつき合いだけれど『かわいい』と言われたのは今日が初めて。思いがけず褒められて、頬に熱が集まってくるのを実感した。
「……私に彼氏がいないのは、翔ちゃん以外に好きな人ができなかったからだよ」
男は翔ちゃんだけじゃない。
翔ちゃんにフラれた私は自分にそう言い聞かせると、彼以外の人を好きになろうと心に決めた。でも翔ちゃん以外の人に心がときめくことは一度もなかった。
私に彼氏がいない理由を今さら聞いてくるのは、どうして?
隣にいる翔ちゃんを見つめると、顔を上げた彼と視線がぶつかる。