私の上司はご近所さん
「ただいま」
食堂の引き戸をガラガラと開けると「おかえり」という声が返ってきた。けれどその声は家族のものではなかった。
この声は……。
聞き覚えのある声に驚きながら店内を見回すと、サバの味噌煮定食を食べている部長の姿があった。
「部長!」
まさかウチに部長がいると思ってもみなかった私の胸が、トクンと跳ね上がる。
「あ、百花、翔ちゃん、おかえり。部長さんがわざわざこれを持ってきてくださったのよ」
母親はそう言いながら、私たちに北海道土産の定番中の定番であるクッキーの箱を見せてきた。部長のテーブルの脇には大きなキャリーケースが置いてある。
この様子だと、羽田空港から帰ったばかり?
「部長、ありがとうございます!」
マンションに帰るついでだったとしても、ウチに寄ってくれたことがうれしい。張り切って部長にお礼を告げた。
「どういたしまして。それで今日はデート?」
翔ちゃんと私を交互に見た部長の口角が、わずかに上がっていることに気づく。
部長ったら、また私たちを面白半分にからかうつもりだ。
「違いま……」
「まあ、そんなとこです」
デート?と聞いてきた部長の言葉を否定しようとした途端、翔ちゃんに言葉を遮られてしまった。