私の上司はご近所さん
「翔ちゃん!」
「なんだよ」
「今日は別にデートでもなんでもないでしょ」
私は相思相愛のふたりが出かけることをデートだと思っている。だから今日は翔ちゃんと出かけたけれど、これはデートではない。
「俺はデートのつもりだったけど」
「……っ!」
それなのに翔ちゃんはデートだと言い張る。私の家族がいる食堂で、しかも部長の前だというのに、堂々とデート宣言する翔ちゃんが信じられない。
「ほら、部長さんの前で揉めないの」
そんな私たちの間に母親が割って入ってくる。翔ちゃんは大きな息を吐き出すと、部長からひとつ離れたテーブルに着いた。そして例のものを母親にオーダーする。
「おばさん、俺いつものね。百花は?」
「私も同じで」
翔ちゃんの向かいの席に座ると、母親がお水を出してくれる。
「あら? ふたりで食べてきたんじゃないの?」
今の時刻は午後八時四十五分。決して早い帰りではないから、母親がそう思うのは当然だ。
「それがね……」
私は江ノ島の混雑した様子を母親に伝えた。そうこうしている間に、オーダーしたいつものカツカレーが出来上がる。お昼におにぎりしか食べていない私たちはお腹がペコペコだ。