私の上司はご近所さん
爽やかに挨拶をした部長が食堂の引き戸をガラガラと開ける。
今日はゴールデンウイーク最終日。明日になれば部長とまた職場で顔を合わすことになる。それなのに、まだ帰ってほしくないと思ってしまう。
「部長!」
声をあげつつ食堂を出て行った部長の後を急いで追った。
「ん? どうした?」
足を止めた部長が振り返る。
しかし『どうした?』と聞かれても、部長を追い駆けて呼び止めた理由をうまく説明できない。
「……翔ちゃんとは本当になんでもないんです」
咄嗟に言い訳をしてしまったのは、翔ちゃんとの仲を部長に勘違いされたままでは嫌だったから。自分でもどうしてそう思うのかわからない。
「そうか」
「はい」
複雑な心境を抱える私には関係なく、部長は瞳を細めると柔らかく微笑んだ。久しぶりに見た部長の笑顔はやはり素敵で、キュンと胸が高鳴る。
「園田さん、また明日。おやすみ」
「はい。おやすみなさい」
私と翔ちゃんがデートしようがしまいが、部長には関係のないこと。私ったら、なにを言っているんだろ……。
サラリと挨拶をして帰る部長の後ろ姿を見つめながら、彼を追い駆けてまで話すことでなかったと後悔した。