私の上司はご近所さん
「なあ、百花。俺は結婚したら美帆にもこの食堂を手伝ってほしいと思っているんだ」
「えっ? どうして?」
休みの日は私も食堂を手伝っているし、今、人手が足りないとは思わない。
「そろそろ、じいちゃんとばあちゃんに楽してもらいたいからな」
お兄ちゃんが結婚して美帆さんと一緒に両親を手伝えば、祖父母も安心して引退できるだろう。ずっと働きづめだったふたりには、旅行したりして老後を楽しんでもらいたい。
「そっか」
美帆さんは隣町の歯科医院で歯科助手として働いている。長年勤めてきた仕事を辞めるのはもったいないとは思うけれど、そこは私が口出すことじゃない。
お兄ちゃんの考えに同調してうなずく。
「でもさ……この食堂に美帆を縛りつけていいのかと思ってさ……」
私たちしかいないキッチンに、お兄ちゃんの言葉がポツリと響いた。
もし、私が美帆さんの立場だったら?と想像してみる。
ダンナさんの家族と一日中一緒に働かなければならないなんて、気疲れするかも……。
「それ、美帆さんに相談したの?」
「まだ」
「きちんと話し合ってみれば?」
「そうだな」
お兄ちゃんは眉をハの字にしながら困ったように笑った。