私の上司はご近所さん
今日もキリのいいところで残業を終わらせると、パソコンの電源を落とす。すると部長に「終わったか?」と尋ねられた。「はい。終わりました」と私が答えると、部長と帰路につく。そんな日々がもう二週間も続いている。
「明日は残業禁止だからな」
家の前まで送ってくれた、部長が突然そんなことを言い出した。
「えっ? どうしてですか?」
「明日は俺が出張だから」
「……?」
明日、部長が名古屋支社に出張することは知っている。だからといって、私の残業が禁止になる意味がわからない。首を傾げていると、部長がクスッと小さく笑った。
「とにかく明日は残業せずに早く家に帰ること。寄り道も禁止。いいね?」
まるで小学生の下校を指導する先生のような部長の言葉が、さらに私を混乱させる。
「……?」
頭の中でハテナマークが飛び交う中、中腰になった部長に顔を覗き込まれた。長いまつ毛、通った鼻筋、キメの整った肌、部長の顔は相変わらず眉目秀麗だ。
「返事は?」
「……はい。わかりました」
間近に迫った部長の美しい顔に見惚れながら返事をすると、彼のその澄んだ瞳が柔らかい弧を描いた。
「いい返事だ」
部長は上半身を起こすと私の頭の上に手をのせる。そして大きな手をポンポンと優しく跳ね上げた。
完全に子供扱いされていると思いつつも、部長の温もりがうれしかった。