私の上司はご近所さん
異動してきて間もない部長にとんでもない姿を見られてしまい、恥ずかしさが倍増して顔に熱が集まってくるのを実感した。けれどいつまでも失態を気にしても仕方ないし、今は仕事中だと気を取り直す。
「部長、実は……」
取材申し込みの報告をしつつ、オフィス前方のデスクに向かう部長の後をついて行った。
「断る理由がないな。話を進めてくれ」
自分のデスクにたどり着き、イスに腰を下ろした部長が即座に短い指示を出す。
冷静沈着。それが部長の印象。世間話が好きで親しみやすい人だった前任の井上部長とのギャップに戸惑ってしまう。
それでも緊張しながら「はい」と返事をすると、星出版の山崎さんに電話をかけるために自席に戻った。
上司の承認を得られたことを山崎さんに伝える。
「山崎さん。取材日ですがいつがよろしいでしょうか」
『そうですね。できるだけ早くお願いしたいのですが……』
日程調節も広報の仕事。山崎さんの要望をメモに取る。
「わかりました。工場の日程を確認したらまたご連絡いたします」
次は工場に電話しなくちゃ……。
頭の中で次にすることを整理していると、受話器の向こう側から耳を疑ってしまうような言葉が聞こえてきた。