私の上司はご近所さん
一歩も動いたらダメだからねって、少し大袈裟じゃない? でもそんなに急いで、結衣は私になんの用があるのだろう……。
頭をひねっていると、結衣がエントランスに姿を現した。
「結衣!」
私の呼びかけに気がついた結衣はこちらに走り寄ってくると、拝むように両手を合わせた。
「百花! 一生のお願い! 今日の合コンに参加して!」
「えっ?」
結衣の言葉で、合コンの開催日が今日だったことを思い出す。けれど私は合コンには参加しないと、結衣にきちんと断った。切羽詰まった表情を浮かべる結衣を見つめる。
「先輩が仕事でミスって合コンに参加できなくなっちゃたんだ。ほら、人数合わないとシラけるでしょ」
結衣が困っていることは十分にわかったし、力になりたいとは思う。しかし今日は残業しない、寄り道しないで真っ直ぐ帰る、と部長と約束した。
「結衣。ゴメン……」
今回もきちんと断ろうとした矢先、結衣が私の背後に回り込んだ。
「会費は先輩持ちだから気にしないで。ほら、早く行かないと遅刻しちゃう」
「あ、ちょっと結衣!」
結衣は私の背中に両手をあてると力を込める。その勢いに押された私の足が一歩二歩と前に進んだ。
仕方ない。今回は結衣を助けるために合コンに参加しよう。
白いワンピースにピンク色のカーディガン姿の気合い十分な結衣に、なにを言っても無駄だと悟った私は覚悟を決めた。