私の上司はご近所さん
女性が喜ぶ褒め言葉をサラリと口にするなんて、芳川さんは合コン慣れしているんだ……。
お世辞だとわかっていても、恥ずかしい。
「百花って、名前もかわいいよね」
「あ、ありがとうございます」
さらに恥ずかしくなるような芳川さんの言葉に、居心地の悪さを感じてしまった。けれど今日の私の目的は、お腹いっぱいになるまで食べること。芳川さんのことなど気にせずに、せっせと料理を口に運ぶ。
「俺、おいしそうに料理を食べる女の子って好きなんだよね」
「……そうですか」
もしかして芳川さんって、私狙い? へえ、珍しい人もいるもんだ……って感心している場合じゃない!
ハッと我に返った私は咀嚼していた料理をゴクリと飲み込むと、そっと立ち上がった。
「結衣、ゴメン。私、帰るね」
隣の結衣にコッソリ耳打ちすると、バッグを手に取る。
「えっ? どうして?」
どうしてって、合コン慣れしている芳川さんにこれ以上絡まれるのが嫌だからとは、この場では言えない。
「ちょっと、お腹の調子が悪くて……ゴメンね」
「あっ、百花!」
私を引き留める結衣の声を無視したまま個室から出ると、店の出口に向かって小走りした。
芳川さんの軽い言動に嫌気がさしたのは事実だけれど、出会いを求めていない私が合コンに参加したことが一番悪い。
自分の浅はかな行動を後悔しながら、駅に向かった。