私の上司はご近所さん
驚きと恐怖で体が固まり、声も出せない。ただその場に立ちすくむことしかできない私を見たオジさんの口角がニヤリと上がった。
逃げなくちゃ!
そう思っても体が動かない。背筋に嫌な汗がツツツっと流れ落ちたとき、背後から声が聞こえた。
「園田さん?」
私はこの声を知っている。彼の声を聞いた途端、まるで呪縛が解かれたように体が軽くなった。
「部長っ!」
助けを求めるために駆け出すと、部長の胸に飛び込む。彼はよろけつつも、私をしっかりと抱きとめてくれた。
「なにがあった?」
部長に聞かれた私は顔を上げると、オジさんに向かって指を差す。たったそれだけの仕草で、部長はなにがあったのかすべてを理解してくれた。
私と部長の視線を感じたオジさんは、あたふたとしながらその場から逃げ出す。
「おい、待てっ!」
部長は私を支えていた手を離すと、オジさんの後を追おうとした。けれど私は部長の腕を強く掴み、彼の動きを止める。
「……ひとりに……しないで」
この暗がりでひとりになるのは嫌だ。
震える声で部長にすがると、彼の腕が私の背中に回る。そしてその腕に力がこもった。
「もう大丈夫だ。心配ない」
部長の低くて温かい声は、一瞬のうちに私を安心させてくれる。
「……はい」
彼の腕に包まれながらコクリとうなずくと、逞しい胸板に顔をうずめた。