私の上司はご近所さん
私が落ち着きを取り戻すと、部長が警察に通報してくれた。変質者の被害に遭ってしまった状況と名前と住所などを聞かれたのち、部長と一緒に帰路につく。
「最近この辺りで変質者が出るって噂、聞いてなかったのか?」
ゴールデンウイークに翔ちゃんと出かけたときのことが、頭の中にパッと浮かび上がる。渋滞にハマッた車内で、たしか翔ちゃんがそんなことを言っていたような気がする、と……。
そして同時に気づいたのは、ここ最近の部長の態度。
「部長。もしかして変質者が出るかもしれないから、私の残業につき合ってくれていたんですか?」
部長は私が残業した日は必ず一緒に帰り、家まで送ってくれた。本当のことが知りたくて、隣を歩く部長の顔を見上げる。
「そんなことより今日は残業しないって約束だったよな?」
私の気持ちとは裏腹に、部長は答えをはぐらかす。
「今日は残業していません」
「それなら何故、帰りが遅くなったんだ?」
「それは……」
残業はしないという部長との約束は守った。けれど寄り道せずに真っ直ぐ家に帰るという約束は守れなかった。帰宅が遅くなった理由が言いづらい。しばらくの間、無言でいると部長が足を止めた。