私の上司はご近所さん
「どうして遅くなった?」
同じく足を止めると、部長に顔を覗き込まれる。こんな至近距離で聞かれたら瞳が泳いでしまって、嘘をついているとすぐにバレてしまう。
「……結衣に誘われてしまって」
帰りが遅くなった理由を渋々答えると、部長の澄んだ瞳が丸くなった。
「まさか合コンに行ったのか?」
「……はい」
カンが鋭い部長を前に小さく肩をすくめていると、彼の口から大きなため息がこぼれ落ちた。
「心配させないでくれと言ったよな?」
「……」
変質者から守ってくれたことは感謝している。でも頭ごなしに怒らなくてもいいでしょ?
胸の中で黒い感情が渦を巻き始めて『ごめんなさい』の言葉が口から素直に出ない。うつむいたまま黙っていると、頭の上に部長の手がのった。
「別に怒っているわけじゃないんだ。とにかく無事でよかった」
彼の大きな手が、ポンポンと跳ね上がる。
「部長、ごめんなさい」
顔を上げて謝ると、瞳を細めて笑みを浮かべている部長と視線が合う。優しげな部長の笑顔を見た瞬間、渦巻いていた感情が浄化されていくのを感じて、心配かけたことを心から申し訳ないと思った。
「謝ることはないさ。でも帰りが偶然同じ時間帯になって本当によかった」
「部長は出張の帰りですよね?」
「ああ。しかし合コンに参加したのに、ずいぶん早い帰りだな」