私の上司はご近所さん
時刻は午後九時を過ぎたばかり。もう、合コンはお開きになっただろうか。
歩き出した部長の後を追う。
「ああいうのは、苦手です」
「チャラい野郎に迫られたのか?」
「……お医者様にグイグイと」
「へえ、そうか」
今さら嘘をついたり、誤魔化しても仕方ない。そう思って合コンでの出来事を打ち明けたのに、部長の眉間にシワが寄った。彼が不機嫌になる理由がわからない。
「部長は合コンに参加したことあるんですか?」
「どうだろうな。それよりイベントが終われば落ち着くんだよな?」
「はい」
少しでも話を盛り上げようとしたけれど、部長に合コンの話を断ち切られてしまった。
「それなら来週も俺と帰ること。いいね?」
暗い夜道をひとりで帰るのは怖いし、部長と一緒に帰れるのはうれしい。でも部長に負担をかけてしまうのではないだろうか。
そんな気兼ねが邪魔をして、部長の好意を素直に受け入れることができない。
「でも……」
私が言いよどんでいると、部長がクスッと笑う。
「俺と園田さんはご近所さんだ。遠慮することはない」
そうだ。仕事中は渋い表情を浮かべている部長の笑顔を見られるのも、こうして一緒に帰ることができるのも、私と部長がご近所さんだから。
「はい。よろしくお願いします」
部長がご近所さんでよかったと心から思った。