私の上司はご近所さん
翌日の土曜日。どこにも出かける予定がない私が食堂の開店準備を手伝っていると、店の引き戸が勢いよく開いた。
「百花っ! オマエ、変質者に襲われたんだって?」
血相を変えて食堂に飛び込んできた翔ちゃんが、私の両肩をガシリと掴む。
被害に遭ったことは家族にしか言ってない。でも小さな商店街の目と鼻の先で起きた出来事だ。いずれ、さつき通り商店街の人々に知られてしまうと覚悟はしていた。けれど、まさかこんなに早く噂が広まるとは予想外だ。
「翔ちゃん、誰に聞いたの?」
「野沢のおっちゃん」
「ああ、そっか」
野沢さんとは、さつき通り商店街の肉屋のおじさんのこと。さすが情報通と、納得してしまう。
「それで大丈夫だったのかよ」
「襲われてないから安心して。ただ変なモノを見せられただけ」
私の両肩を掴んでいた翔ちゃんの手が、ようやく離れた。
「そっか。それはよかった……って、ちっともよくねえよな?」
「うん」
翔ちゃんの言う通りだと、大きくうなずく。だって男性のモノを見たのは生まれて初めてだし、変態のあんなモノを見せられて、気分がいいわけない。トラウマになったらどう責任取ってくれるんだと、思ってしまう。
「だから帰りが遅くなるなら俺に連絡しろって言っただろ?」
イスにドスンと腰掛けた翔ちゃんが大きな声をあげた。