もしも、運命の赤い糸がみえたなら
書籍の匂いよりコーヒーの香りが強くて、不思議な感じ。
「山脇先生、失礼します。」
そういって、声をかける。
薄い水色のシャツの黒い細身のスラックス。
入学式の時にはかけていなかった黒縁のメガネ。
癖のないこげ茶色の髪は相変わらずキレイで。
パソコンに向き合っていた先生が顔を上げ、あたしを見上げる。
「1年4組の石川です。
広報委員で生徒新聞を作るため、原稿の依頼に参りました。
よろしくお願いします。」
練習してきたセリフを言い切る。
「わかりました。わざわざありがとうございます。
この締め切りはいつまでなのですか?」
「4月23日の放課後に回収に来ます」
「わかりました。」
そう言って、壁掛けのカレンダーに“広報委員会原稿締切”と書き込む。
「先生っておいくつなんですか?」
「22歳ですが?」
「じゃあ、大学卒業したばっかりなんですか?」
「そうですよ。」
「彼女はいますか?」
「いません。」
「好きな人は?」
「・・・それも、いませんね。」
一瞬、ためらったような空気があったが、先生は否定した。