無視は無しで【短編】
田中先輩は、しばらくこちらを見つめていた。
その後、満面の笑みでこう言った。
「お疲れっ!」
「お疲れ様です…」
思わず、語尾が消え入ってしまった。
堂々と男らしく歩いていく後ろ姿が、どんどん離れていく。
私たちのいる方向を見て、 立ち止まる人は基本、私の美人な親友を見ている。
いくら部活が同じだからといって、特別視してもらえるわけもないのに。
わかってはいても、かなりのショックを受けてしまった。
どんなに憧れの先輩であろうと、男の人はみんな、美人が好きなんだ。
とても思い知らされた。
そして、この話は冒頭へと戻る。
「別に…もう、どうだっていいんだから。」
2度目の諦めに似た嫉妬の台詞を吐く。
ふと顔を上げると、遠くの方にバスが見えた。
憂鬱な気分からか、よっこらしょ、と声に出して椅子から重い腰を上げる。
すると、別方向から、聞き馴染んだ声が聞こえてきた。
「美濃部」
徐々に誰かが近づいてきたのを、私は知っていた。