無視は無しで【短編】
「美濃部…?おい」



振り返ったとすれば、私はどんな顔をしてしまうのだろう。

泣く?ううん。

無表情?きっと笑えやしない。

不機嫌そうな顔?ああ、私、先輩に対して、とっても失礼だ。

おまけに、振り向かず無視してバスに乗り込んでしまおうだなんて、私はなんてひどいことを考えているんだろう。

バスが私の正面に乗車扉を置いて、止まる。

せっかく声をかけてもらっているのだから、振り返って、挨拶をしなければならないはずなのに。

体が動こうとしてくれない。

開いた扉にいっそ、吸い込まれてしまおう。

足を進めた時、肩、背中、頭のてっぺんにずっしりと重いものがのしかかった。

あまりにも突然のことに驚き、息を止めてしまった。

すると、呆れた様な、少し怒っている様な声が降ってきた。



「たくっ、お前はこうでもしねぇとわからねぇのか…!」



田中先輩は私の後ろから覆いかぶさる様にして、そのまま動かない。

私はというと、困ってしまって、あたふたして、どうしようもなくなっていた。

ただただパニックに陥ってしまった私の正面で、プシューて音を鳴らし、乗車扉が閉まる。



「ああ!」



思わず間抜けに叫んでしまったが、それにも構わず、バスは行ってしまった。
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