無視は無しで【短編】



バスを見送った後、田中先輩を払い退け、勢い良く振り返る。



「もう!先輩のせいでバス行っちゃったじゃないですか!!」

「美濃部が悪いんだろ」

「な、何でですか!」



田中先輩は、非常に不機嫌そうに言う。

まあ、それは私のせいなのだろうけど。

でも、私の気分もあまりよろしくないのは、他でもない先輩が絡んでいる。

私が田中先輩を睨みつけていると、先輩は俯いてしまった。

一体どうしてしまったのか、私の睨みがきつすぎたのか、と戸惑っていると、俯いた先輩から声が聞こえてきた。



「…さっきは、あんなに嬉しそうな顔、してたくせに」

「え…し、してませんよ!そんな顔っ」



思い出したら、思いっきり恥ずかしくなってきた。

ていうか、ばれていたなんて、恥ずかしすぎる!

きっと今、私の顔は林檎くらい、真っ赤になっていることだろう。



「俺も、思わずつられたじゃねぇか」

「…え?」



不意打ちの言葉に顔を上げる。

ばっちり目と目が合ってしまって、もう逸らせない状況になってしまった。
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