PMに恋したら

「また連絡するから」

「はい、ありがとうございました」

「実弥」

車を下りようとしたときシバケンに呼び止められた。

「俺はいつでも実弥のそばにいる」

「はい」

最後にキスをしてシバケンの車が見えなくなるまで見送った。

大切な人がそばにいてくれると力が湧いてくることを知った。本音は家に帰ることは怖いけれど、今の私はもう大丈夫だ。無理やり自分に言い聞かせる。

自宅のドアノブにはコピー用紙が入ったビニール袋はかけられていなかった。誰かが家の中に入れてくれたのだろう。
玄関の鍵がかかっていたら家に入れないかもしれないと思ったけれど、もしかしてとドアノブに手をかけるとドアは簡単に開いてしまった。両親の防犯意識の低さに呆れながら中に入ると、リビングから母が勢いよく顔を出した。

「実弥!」

母は私に駆け寄ると強く抱き締めた。

「ちょっ、お母さん?」

「心配したんだから! どこにいるのか連絡くらいしてきなさい!」

その声は必死で、夜通し起きていたのだとわかるほどに目が疲れている。

「遅すぎるから何度も電話したのよ! 仕事もどうするのかと思って」

「ごめん、スマホの電池切れちゃって」

母からの連絡にも気がつかなかった。だって家族から離れたくてシバケンの家に行ったのだから。

「本当によかった……」

安堵する母の様子に申し訳なさが増す。せめて母には連絡するべきだった。

「ごめんなさい。もう大丈夫だから。会社に行く準備するね」

母が私から離れると玄関にはまだ坂崎さんの靴がある。

「本当に泊まったんだね」

「そうよ。今はまだ客間で寝てるの。今日はお父さんと車で出勤するそうだから」

「そう……」

それならば早く支度して会わずに家を出たい。

「お母さんは少し寝なよ」

「朝ごはんは?」

「いらないから寝て。私は大丈夫だから」

2階に上がって着替えを持つと再び下りてバスルームに入った。
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