PMに恋したら
坂崎さんに向かって頭を下げた。お願いだから坂崎さんも私なんかを相手にしないで別の女性に意識を向けてほしい。
「ふっ」
坂崎さんの馬鹿にしたように笑う声に顔を上げた。
「違うでしょ」
坂崎さんはいつかと同じようにスッと私の耳元に顔を寄せた。
「実弥さんは逆らえないんですよ」
低い声にぞっとする。
「何度でも言います。僕と結婚することは決まってるんですよ」
「私は自分の恋人は自分で選びます」
負けじと坂崎さんの耳元で囁いた。
「店を予約してあります。行きましょう」
「いいえ、遠慮します。それに一人で帰れますから」
顔を寄せて話し合う私たちはきっと周りからカップルだと思われるのだろう。でもこれは甘い会話じゃない。
「失礼します」
坂崎さんの横を抜けてパトカーが走っていった方向に早足で歩きだす。
「実弥さん」
坂崎さんは私の名を呼びながらついてくる。
「店はその先です」
坂崎さんは都合のいいように解釈している。つくづく恐ろしい人だと思う。父は本当にこの人と私を結婚させる気なのか。
「あ……」
先ほど通り過ぎて行ったパトカーがコンビニの前に止まっているのを見て足を止めた。道路を挟んだ向こうのコンビニに人が集まっている。一台のパトカーと二人の警察官に視線を向けた。それはシバケンと高木さんであるのが遠くからでも分かるほどはっきり見えた。
ではさっきシバケンが横を通ったのだ。嬉しいのと同時に後ろめたさを感じる。坂崎さんと居るところを見られたかもしれない。気づかれていないとしても早く移動しなければ。
「何かトラブルでしょうか」
坂崎さんが道路の向こうを見ながら言った。
「あんな光景は僕たちには縁のないものです。行きましょう」
冷たく言うといきなり私の手を掴んだ。
「ちょっと!」