PMに恋したら
振りほどこうとしたけれど坂崎さんの手は私の指に絡んだ。
「放してください。声を上げますよ。今は都合が悪いんじゃないですか?」
道路の向こうには警察がいる。大声を出せば聞こえるだろう。
「実弥さんにそれができれば、ですけど」
「え?」
「こんなところを彼に見られたらどう思うでしょう」
驚いて目を見開いた。坂崎さんはシバケンの存在を知っている。恋人がコンビニの前にいる警察官だと分かっていて私の手を放さない。
「どうして……知っているんですか?」
「実弥さんのことなら何でも知ってます」
冷たい笑顔を私に向けてから道路の向こうを見た。
「今の僕たちを見て彼はどうするでしょうね。ここまで飛んでくるでしょうか? それとも無視して仕事を優先するか、どう思います?」
怒りと焦りと混乱で目が潤んできた。寒くもないのに体が震え歯がカタカタとかち合う。
「彼は……私がここに居ても来ません……」
私の存在を認識しても目の前の仕事を放り出して個人的なことを優先したりはしない。そんな人であってほしい。だからこの状況は私自身で何とかしなくては。
「放してください。お互いに冷静になって、ここから離れましょう」
「では食事に行きますか?」
「行きません」
「行くと言ってくれるまで僕は実弥さんと手をつないだまま動くつもりはありませんよ。毎回逃げられるので今回は逃がしません」
向かい合い私の進路を妨害する。絡んだ指の上から坂崎さんの別の手が包む。
「どうしてここまで私にこだわるんですか? 坂崎さんなら私じゃなくてももっと素敵な女性と結婚できるはずです」
「僕には夢があります。けれどそれについてきてくれる女性はなかなかいないのです。いつも駄目になる。けれど幸い実弥さんのお父様に気に入っていただきました。実弥さんと結婚すれば全てうまくいく。結婚生活も仕事も」