PMに恋したら
ああやっぱり、と唇を噛む。坂崎さんは私を見てはいない。利用しているだけだ。父も坂崎さんの野心を知っていて、それでもいいと思っているから強引に私との結婚を進めようとしている。
坂崎さんは強情で怖い。このまま逆らい続けると何をされるか分からずに身がすくむ。絶対に食事になんて行けない。
視界にタクシーが入った瞬間思いっきり坂崎さんの手を振り払った。道路に近寄り手を上げるとタクシーは私の目の前に止まる。
「実弥さん」
坂崎さんは少しも焦る様子もなく逃げようとする私を止めようともしない。
「お父様に逆らえますか?」
開いた後部座席のドアから勢いよく乗り込む私に坂崎さんの声がぶつけられる。
「出してください!」
運転手に焦って怒鳴るように伝えるとドアを手で勢いよく閉めた。
窓から見た坂崎さんは馬鹿にするような視線を投げかけていた。堪らずに視線を逸らしコンビニの方を見るとシバケンと目が合った気がした。遠くて本当に見つめ合ったのかわからないけれど、私は後ろめたくて目を逸らしてしまった。
タクシーが走り出しても、いつまでもシバケンに見られているような気がした。
『今日会える?』
デスクに座ってシバケンからのメッセージを食い入るように見つめた。
嬉しい。非番のシバケンと会える。
仕事終わったらすぐに行くと伝えて書類の処理に精を出す。
一人暮らし用の物件を決めたし、引っ越してから転職しようと覚悟が決まった。
定時で退社し足取りも軽くシバケンの家に向かう。寝ているかもしれないと思ったけれど、チャイムを押すとシバケンはすぐに出てきた。その左頬には絆創膏が貼られている。
「ほっぺ、どうしたの?」
「ああこれは、昨日ちょっとね」
そう言うと中に入るよう促した。玄関で靴を脱ぐと急に抱きしめられた。
「シバケン?」
耳や髪にキスをしてくるシバケンに驚く。