PMに恋したら
「あの人しつこいの? 俺が何とかしようか?」
「えっと……大丈夫。多分父が悪いんです」
父が結婚を勧めるから坂崎さんもあそこまでしつこいのだろう。今更引けないプライドもあるのかもしれない。
「大丈夫です。すぐ家を出るから」
「物件もう契約しちゃった?」
「まだだけど、どこにするかは決めたから今度契約してくる。ここからも遠くないからすぐ会えるよ」
「だめ」
「え?」
「一人暮らしはだめ」
またしても怒ったような声だ。
「だめ……かな?」
「ここに住んで」
シバケンの唇が再び首に触れる。
「一緒に住も。ここが狭ければ他に引っ越す」
私の顔が赤くなるのを感じる。思ってもいない申し出だった。
「いいの?」
「うん。そばにいて」
嬉しいけれどそれでいいのかなとも思う。自立すると決めたのにシバケンに甘えるのはお互いのためになるのだろうかと。
私の様子にシバケンは不安そうな顔をする。
「嫌?」
「ううん、そうじゃないの。シバケンに甘えてもいいのかなって。世間知らずな自分が嫌だったから家を出るのに、逃げてるみたいで」
「逃げじゃないよ。将来のために一緒に住むんだから。俺はそのほうが安心」
そう言いながらチュッと音を立てて首にも肩にもキスをする。
「甘えてくれたら嬉しいけど、実弥が気になるなら生活費は全部折半にしよう。そこから始めようか」
「はい……」
お返しにシバケンの耳にキスをした。
そうして顔を上げたシバケンの唇と私の唇が重なる。角度を変えて何度も合わさる唇が痺れてくる。いつまでも玄関でこうしているわけにもいかないので顔を離そうとシバケンの頬を触ると「いてっ」と小さく呻いた。絆創膏に触れてしまったようだ。
「あ、ごめん。痛いの?」
「傷できたばっかだからね」
「どうしたの?」
「昨日の当直で喧嘩を扱ったんだけど、暴れてる人を抑えようとしたら顔を殴り掛かられて、避けたときにその人の指輪が掠った。ゴツイやつで距離を見誤った」