PMに恋したら
シバケンのお陰で自分を変えようと思えたのだ。彼と今後どうなろうとも自分自身の力で仕事をする。その決意だけは貫きたかった。
会議から戻った部長のデスクに近づいた。
「部長……」
「黒井さ、古明祭りの食材発注の一覧をレストラン事業部サーバーから印刷してくれ」
「ああ、はい……わかりました」
話があったのはこちらなのに、逆に用件を言われてしまい自分のデスクに戻った。
明日は古明橋で古明祭りという大きなイベントが行われる。毎年早峰フーズからも屋台を出店している。主に飲食店担当社員の仕事だけれど、事務処理は私も関わりがあった。
頼まれた資料と共に退職願を持って再び部長のデスクまで行こうと立ち上がったとき、「黒井さーん、3番に外線でーす」と声をかけられた。
「え、はい……外線?」
内線がくることは毎日だけど、社外から私宛に電話がかかってくることは滅多になかった。電話機は『外線』と表示されたランプが保留中であることを示している。
「どなたですか?」
「それが、黒井さんのお母様からです」
「え?」
母から会社に電話がかかってくるなんて驚いた。用事は個人携帯に連絡してくるはずなのに。
「すみません、ありがとうございます」
不思議に思いながらも受話器を取って外線の応答ボタンを押した。
「もしもし……」
「実弥? 仕事中にごめんね、電話なかなか出ないから」
母の声はかなり慌てていた。今日に限ってスマートフォンをロッカーのカバンに入れたまま忘れていた。
「ごめん……何かあった?」
「それが、お父さんが事故に遭って」
「え!?」
「病院に搬送された。お母さんも今病院にいるの」
「ちょっと、どういうこと? 事故って!?」
周りの社員が私の声に驚いたのか様子を窺っている。
「車とぶつかったって……警察の人がそう言ってたんだけど、お母さんも気が動転して……」
「お父さん大怪我なの?」
「今処置をしてもらってる。でも意識がないの」