PMに恋したら
「とにかく私は仕事終わったらすぐ行くから、逐一連絡してね。スマホは常に持っておくから」
母との通話を終えて受話器を置くと「実弥ちゃん?」と向かいのデスクの丹羽さんが心配して声をかけてくれた。
「事故ってどうしたの?」
「あの……父が事故に遭ったそうで……」
「え!?」
「状況はまだよく分からないんですけど、母が今病院にいるそうです……」
「実弥ちゃんも行きな」
「でも……」
「黒井、早退しろ」
話を聞いていたのだろう部長がいつの間にか後ろに立っていた。
「そういうことなら急いで行け。こういう状況で帰さない鬼上司じゃないぞ俺は」
「は、はい、すみません!」
部長に頼まれた資料を渡した。直前で一緒に持っていた退職願を慌てて回収して、その白い封筒を見られないように思わず手で握り締めてしまった。不審な手の動きに部長は怪訝な顔をしたけれど、私は何事もなかったかのように荷物をまとめて「お先に失礼します」と言ってフロアを出た。
母に教えられた病院に向かうために駅前でタクシーを拾った。父が搬送された病院は古明総合病院だ。車ならここから10分とかからない。
タクシーの中でただ混乱していた。
どうして父が古明総合病院に運ばれるのだろう。父の会社は自宅の隣の市にある。そこなら大きな病院がいくつかある。仕事中であれば古明橋の病院に運ばれるなんてまず有り得ない。父が私の会社の近くにいなければ……。
タクシーが病院に向かう途中で停まったパトカーとすれ違った。数名の警察官が交通規制を行い、道路にはフロントが無残に破壊され電柱にめり込んでいる軽自動車があった。電柱は傾いている気がしなくもない。一目で大きな事故だとわかる。