PMに恋したら

しばらく母と病室のイスに黙って座っていた。父がこうなってしまってはこの先の生活を考え直さなければいけなくなる。私の転職は保留だ。もしくはこのまま今の会社に勤め続けなければいけないかもしれない。父の仕事はどうなるのだろう。母はこのまま専業主婦でいいのだろうか。考えれば考えるほど何もかもが不安だった。

「お父さんはどうしてあそこにいたの?」

父の顔を見つめ続ける母に問いかけた。けれど答えは聞かなくても分かっていた。

「お母さんの予想では実弥の会社に行こうとしていたと思う」

「私もそう思うよ」

私は父のコネで就職した。早峰の幹部には父の学生時代の友人がいる。その人に会いに来たのだろう。

「どうせ私を辞めさせる話でもしに来たんでしょ」

そうして坂崎さんとの結婚話を裏で着々と進めようとしていた。

「きっと実弥の会社の近くのパーキングに車を止めて、歩いているところで轢かれたのかな」

それは自業自得ではないか、と父に同情する気持ちが失せた。事故を起こした運転手が悪いけれど、父があそこにいなければ大怪我なんてしなかったのに。

「本当に、バカねお父さんは……」

母が呟いた。

「何でも実弥のため、実弥のためって。それで怪我までしちゃうなんて大バカよね」

「お母さん?」

母は穏やかな顔をして父を見つめている。

「お父さんの会社ね、実弥が産まれる前には倒産の危機だったの」

「そうなの?」

父の会社は業界では名が知れている。会社を興したのは祖父だけれど、その祖父が亡くなったときに叔父が社長になったとは聞いていた。

< 123 / 143 >

この作品をシェア

pagetop