PMに恋したら

大学を出てからでも警察官を目指すことはできるから父の望む大学に進学した。公務員試験を諦めていなかった私に父は就職先を決めておいたからと言い放った。会社の重役である父は顔が広く、大企業へコネがあった。私は早峰フーズの内定を知らない間に獲得していた。面接もしていないし、もちろん何のアプローチもしていない。さすがに母も就職先を私の自由にさせるよう説得してくれたけれど意味を成さなかった。全てが父の思惑通りだった。

泣いて抵抗した私は子供のように家から出ていった。一人で生きてやると無謀にも決意した。けれど当時はアルバイトもしていない所持金の少ない私は友人の家を転々とするのも限界で、悔しさを抱いたまま父に屈して入社した。一人で生きていくことができない子供だと思い知らされ、結局私は早峰フーズに就職した。大企業に入れるなんてラッキーだ、と決められた楽な道を受け入れた。

それから2年。仕事にやる気も起きなければ会社に愛着も湧かない。つまらない仕事を淡々とこなして老いていく、恐ろしく長い人生が目の前にあった。



◇◇◇◇◇



『何時に来るの?』と恋人の太一からLINEがきた。それに対して『今駅に着いたよ。お酒買ってる』と返信して駅前のコンビニを出た。
人生で初めての恋人である太一の家は私の家からは近いけれど会社からは遠い。定時で上がっても太一の家に着くのは遅くなってしまう。自分の家で警察特番を見ることはできないけれど、太一なら番組に興味はないものの一緒に見てくれた。

部屋のチャイムを押すと髪をボサボサにした太一が顔を出した。休日のはずの太一はきっと一日中ゴロゴロしていたに違いない。

「お疲れー……」

気だるげに声をかけてリビングに戻る太一の後姿を見ながらパンプスを脱いだ。

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