PMに恋したら

「腹減ってないんだけど実弥は何食うの?」

「えっと……おつまみだけでいいかな」

今夜は太一の方から家に招いたはずなのに食事の用意など気遣いのないのは慣れっこだ。
付き合って1年になるけれど、太一は私を恋人のように甘やかすことはなくなっていた。愛情がないと感じることもあったけれど、深く気にすることはない。付き合っているのにお互いを思いやることは減ってしまった。
私ももう太一に愛情がないのかもしれないとさえ思う。

太一とは渋々参加した合コンで何となく話して、何となく付き合いだした。時々父と似ている性格だなと思うことがあって困惑するのだけれど、付き合おうと思ったのは顔がほんの少し憧れのあの人に似ていたからだ。惹かれた理由がそれだったから、今では少しでも揉める度に頭の中で太一との別れを想像することも増えた。

私が警察番組が好きなことを知っている太一は先に一人で見ていたようだ。始まってから1時間近くたつ番組は今捜査員がひき逃げ事件の捜査をしている様子を映していた。
テーブルに買ってきたおつまみとお酒の缶を置くと、買ってきた私より先に太一がおつまみの袋を開けた。

私はすっかり番組に見入っていた。ひき逃げ事件の犯人が逮捕されたときには心の中で拍手をし、今画面には私服の捜査員が暑い中張り込みをしている姿があってますます画面から目が離せなくなる。そのうち缶チューハイを持つ手が小さく震えた。画面に映る場所は私も利用したことがある県内の駅だ。制服警官以外にも知らないうちに私服捜査員とすれ違っていたこともあったかもしれないと一人テンションが上がる。

高校生の時の出来事は家族にももちろん太一にも言ったことがないけれど、県内の警察を映すたびにシバケンを探してしまう。彼はもうどこの警察署に行ってしまったかわからない。もしかしたら少しでも番組内に映るかもしれない。今も頑張ってくれている姿を一目見たかった。
けれどこの日は結局私の住む県の警察署は一度しか出ることはなく、番組が終わるまでシバケンらしき人の姿はなかった。

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