PMに恋したら
「帰ろうかな……」
そう呟いておつまみの袋やお酒の缶をゴミ箱に捨てた。
「え、もう帰るの?」
太一が不満そうに言った。
「うん。明日も仕事だし……」
泊まっていくのは次の日が休みのときだけだ。太一も明日は仕事のはずだから。
「泊まってけよ……」
そう言って太一は後ろから私を抱きしめた。予期せぬ行動に体が固まった。それをチャンスとばかりに太一の唇が私の首をなぞった。
「太一……ごめん、帰るから……」
「は? 泊まってけって言ってんじゃん」
「でも……」
背後から不機嫌な声が聞こえる。けれど帰らなければ次の日に差し支える。
「家族に泊まるって言ってきてないから……」
「またそれかよ」
太一が鼻で笑った。
「実弥って親の言いなりだよな」
「え?」
「親の許可がないと何も決められないのかよ」
この言葉に怒りが湧いた。親の話題は私には地雷なのだ。
「そんなことない!」
「図星だろ。いつも俺の家にはテレビ見に来てるだけの癖に」
「…………」
まさにその通りだった。父は私が警察に憧れを持つことをよく思っていない。だから太一の家でこうして警察番組を見るのだ。
「この時間にうちに来るってそういうことだって察しろよ」
「でも……」
泊まる気はなかった。太一の言うとおり、家に来る目的は恋人に会うことではなくなっていた。
「そんなに帰りたいなら帰れよ!」
太一は突然私の腕を掴んで無理矢理立たせると、玄関まで引っ張った。
「痛いよ! 太一!」
そのまま勢いよく玄関のドアを開け、私を外まで放り出した。
「わっ!!」
足の裏がストッキング越しにコンクリートの冷たい感触を受け、肩がドアの向かいの壁にぶつかった。
「帰りたいなら帰れ」
太一が冷たく言い放った。
「太一……」
こんな行動に出るなんて驚いた。わがままなところはあったけれど、ここまで乱暴な太一は初めてだ。恋人が知らない他人になってしまったようだ。太一は私に冷たい視線を向け、何も言わずにドアを閉めた。