PMに恋したら
「太一!」
焦ってドアに駆け寄ったけれど鍵をかけるカチャリとした音が鳴り、ドアノブを捻っても開かなかった。
「開けてよ、ねえ!!」
ドアをドンドン叩いた。けれどどんなに大声を出しても、どんなにドアを叩いても太一が開けてくれることはなかった。何度もチャイムを鳴らしたけれど、太一は完全に私を閉め出す気のようだ。部屋の中にカバンもスマートフォンも財布も残したままだ。このまま帰るわけにもいかない。何より今私は裸足だった。スカートの下に穿いたストッキングは追い出されたときに引っ掻けて伝線してしまっている。このまま帰るなんてできなかった。
太一が開けてくれるまで待ってみても、数分なのか数時間なのか、いつまで待てばいいのかわからない。最後にもう一度チャイムを押して、太一が開けてくれないと確信すると私は道路に出た。裸足のまま手ぶらで帰るしかない。大通りに出ればタクシーも捕まるだろう。家に着いて料金を払えばいい。私は渋々歩き出した。
太一の家は住宅街にあって最寄りの駅からは少し歩く。大通りに出たけれど乗用車ばかりが通り、タクシーは走っていないようだ。すれ違った会社員らしき男性が私を不審な目で見て歩いていった。荷物も持たず、裸足で歩くなんておかしいに決まっている。
大学のとき父に抵抗して家を出たことを思い出した。あの時と状況は違うけれど、今は恋人にまで惨めな思いをさせられている。
小石を踏んだのか足の裏に痛みを感じてしゃがみこんだ。地面に何が落ちているのか分からないのに駅まで歩くのも恐怖だ。
涙で目が潤み始めた。太一と何度も言い合いになったことはあったけれど、こんなことをされるなんて思わなかった。