PMに恋したら
鼻をすすった。悲しさと悔しさで涙が溢れた。袖で頬を伝った涙を拭う。このまま裸足で駅まで歩くのは怖いし恥ずかしいけれど仕方がない。
初めて本気で太一と別れようと思ったとき背後から「どうかされました?」と男性の声がした。振り返ると数メートル後ろに警察官が自転車に乗ったまま私を見つめている。
「あ、あの……」
夜道で男性に声をかけられて身構えたあとにそれが警察官だったことに安心した。
「どうして裸足なんですか? 何かあったんですか?」
警察官は自転車から降りるとハンドルを握ったまま押して向かってくる。私は立ち上がった。
これは職質かな? 初めて職質された!
今まで職務質問をされたことがなくて、初めて訪れた事態に緊張してきた。
「えっと……彼氏とケンカして……それで……」
上手く言葉が出てこない。ちゃんと伝えなきゃいけないのに焦ってしまう。
街灯の下まで近づいて来た警察官の顔が制帽の下から見えた瞬間私は息を呑んだ。私より頭一つ分背が高い、過去私が憧れた警察官の柴田健人が目の前に立っていた。
「あ、え……」
言葉を失った。何年も会いたいと願った人が目の前にいる。
「ケンカですか? なんで裸足なんです?」
「あの、その……」
きっとシバケンだ。いや絶対にそうだ。それなのに私は戸惑ってしまう。
「大丈夫ですか?」
「えっと……家から追い出されちゃったんです。カバンもスマホも部屋の中に置いたまま、彼が入れてくれなくて……」
「では何か事件に巻き込まれたとかではないんですね?」
「はい……ただのケンカです……」
恥ずかしさのあまり顔が赤くなっていくのを感じた。犯罪に巻き込まれたわけでもないのに裸足でいるなんて頭がおかしいと思われたに違いない。
「それは災難ですね。でも事件ではなくてよかったです。ただ裸足でいるだけなら声はかけなかったのですが、泣いてしゃがんでいたので事件かと思いまして」